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「月華覇伝」
月華覇伝2         (サイト掲載済み)

覇伝2-2 


「殺生丸様!! どこにおられますかっっ!」
「殺生丸様~~っっ、どうぞお声を!!」

 謎の集団達が遠くから見守る中、殺生丸の近習の二人は犬の死骸を飲み込んだ土砂の周りを丁寧に探し回っていた。想像したくは無い、思いたくも無い。まさかこの土の下に、この犬達のような姿になっているかもしれない殺生丸の姿などは。そんな様子が見て取れる近習達の姿を確かめ、男達は立ち去って行った。

 しばらくして ――――

「……行ったみたいだな」
「な、なんじゃ、琥珀。何を言っておる」
「何者か判りませんが、この場を見張っている者がいたようです。俺の一族は森の中で修行します。長年の経験で森の声みたいなものを感じるんです。ここに異質なものがいるぞと」
「そ、それは、まさか ―――― 」
「その可能性はあります。まさか、殺生丸様のように用心深い方がそのまま悪漢の手に落ちるとも思えませんが、この状況を見るに無傷と言う訳でもないかと」
「こ、琥珀……」

 邪見の顔色は青ざめるを通り越して土気色になっていた。

「ど、どうするんじゃ、これからワシらは?」
「まずは、殺生丸様の安否を確認します。それがはっきりするまでは、あの見張っていた者の手前、最悪の事態になったと思わせて置いたほうが良いかと」
「し、知らせを! 都の警備部隊を呼び寄せて山狩りの準備をするぞ!!」
「……それから、都の姉上か法師様にも連絡を。この事態になって一番得をする人物の周辺をよく監視しておいて欲しいと」
「得をする人物…、まさか、これはあの異母弟の犬夜叉めの仕組んだ事かっっ!!」
「いえ、犬夜叉様はそのような事を考えられるお方ではありません。しかし、犬夜叉様を担ぎ出そうとしている一派には気をつけた方が ―――― 」

 お側用人の邪見より琥珀の方がよほど政情に通じていた。後宮警備の主任を務める姉の側には、女の口と耳と言う情報伝達機関があるからだろう。その中でも信憑性が高く、知っておいたほうが良いと思われる情報は、琥珀にも伝えられていた。

「では、ワシは一旦町に戻り、早馬を仕立てよう。お前はワシが戻るまでここで待て」
「はい、了解いたしました。邪見様もお気をつけて」
「うむ、では!」

 雨がようやく止む頃、邪見の姿は山の入り口から転がるように町を目指して駈けてゆき、琥珀はその姿を見送った後、何を思ったのかその場を離れた。やがて、近場で探して来た手ごろな太さの枯れ木を二本手にして戻ってくる。一生懸命土砂に埋もれた主を探すふりをしながら、もしここから身を隠すとしたら、どこが相応しいだろうかと思考をめぐらしながら。

 その場所を、決してあの怪しげな者達に気づかれる事無く見つけ出さねばと。

 雨上がりの崖の斜面を、娘は水気を含んで重たくなった枯葉を何度も運び上げて血痕や滑り落ちた痕跡を覆い隠していった。丹念に血のついた枯葉は別にどけ、その後に新しい枯葉を入れる。野山で暮らしてきた娘には野生の動物がどれほど鼻が利くか、また弱っていて餌食にしやすいかどうかがすぐ判ってしまう事も知っていた。
 娘のこの行為のお陰で殺生丸は森の動物達やあの追っ手、そして主の姿を探す琥珀の眼からも隠されてしまったのだった。

 娘は泥だらけになりながらその作業を終えると、もう一度洞の中に身を隠している怪我人の所へ行った。こんな山暮らしをしている娘には、傷に塗る薬や添える布切れなど持ってはいない。だから手当てなど出来ようもないのだが、それでも一生懸命に自分に出来る事を考えた。

( 昔、あたしが転んで傷だらけになった時には、母ちゃんがその傷を水で洗ってくれたっけ。傷口に泥がついたままだと、そこから腐ったり体がしびれて動かなくなったり最後には死んじゃう事もある、って…… )

 ぶるぶると娘は頭を振る。どこの誰かは知らないけれど、でももう自分の目の前で誰かが死んでしまうのは嫌だった。自分が嫌だから、名も知らぬ相手だけど助けたいと思う。この時の娘の気持ちはそうだった。

( 水は、ある! それなら、あたしにもあの人の傷口を洗うくらいは出来るし、血止めだったらヨモギの葉っぱでもどうにかなるかも )

 そう段取りを決めると娘は、まずヨモギの葉を取りに山の中を駈けて行った。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 娘が古木の洞の中で人影を見つけ驚いたようにその場を離れたあと、その人影はようやく意識を取り戻した。全身の痛みはひどく、特に左腕に走る激痛は息が詰まりそうになる。あの時、火薬箱を背負った犬達に囲まれ崖っぷちに追い詰められた時、自分の活路は崖を飛び降りる事でしか開けなかった。
 犬達を誘引する薬の器を自分が飛び降りようとした藪の反対側に投げ捨て、一歩空に踏み出す。その間合いが幸いしたのか、追っ手の犬達の背中の火薬箱が爆裂し始め、自分は爆風に飛ばされ狙っていた藪の中へ落下した。藪の密生した小枝が緩衝材となり跳ねたように落ちた地点もまた崖で、そのまま滑り落ちて途中で意識を失い、気付いたらこの洞の中にいた。無意識ながらも、身を隠せる場所を求めたのかもしれない。

( 九死に一生を得たか……。あの風に飛ばされなければ、今頃はあの者達の手に落ちていたやもしれぬ )

 爆風に飛ばされた事で、自分の臭痕は途切れたはず。それがどのくらいの距離を稼いだか判らないが、あの爆発で犬達の体は裂けあたりは硝煙と犬の肉片の生臭い臭いが充満している。後から追跡の犬たちが投下されても、直ぐには追えまい。自分の死体があの土砂の下にあると思い込ませている間に、あの暗殺者どもの手を逃れる手段を講じねば。

「く、無様だな。こんなところで泥に塗れていようとは」

 大きく息を吸うと体中に痛みが走り、気が遠くなる。何度か意識が遠くなりかけた時、殺生丸の耳は枯れ草を踏む小さな足音を捉えた。

( 追っ手か!? …いや、それにしては気配も隠さず、足音も忍ばせてはいない。動物か人か……、邪見達だろうか )

 意識はあるものの、体力の消耗が酷く眼を開けているのも辛い。その足音は、洞の前で立ち止まると中を覗き込んでいるような気配だ。その気配が動いたと思った、次の瞬間 ――――

 頭からざばりと水をかけられた。途端に意識がはっきりしたのは、水の冷たさよりもこの国の皇子として受けた事のない、このような扱いに対しての憤りからだった。

「何をする!」

 鋭く相手を威嚇する。びくり、と相手の気配が怯んだのを感じた。

「あ…、ああ―― 」

 何をする、と言われても娘は声を失って随分になる。出せるのは、この獣のような掠れた声だけだ。

「お前は何者だ」

 ずんと底冷えがするような声の響きだった。娘を見る目の色は凍りついたまま、どこか底なし沼を思わせる暗さがあった。幼い娘でさえ美しいと感じさせる美貌だけに、立ち上る怒気に凄惨さが滲む。

「あ、あぅぅ あ……」

 たとえ相手が幼い子どもだとしても、それが刺客ではないとは言い切れない。もともとの冷たい目付きに更に剣呑な色を濃く浮かべ、目の前の薄汚い襤褸のような子どもの姿を睨みつけた。問いかけた相手から返事がないのにも、そう殺生丸は違和感を感じなかった。後宮で自分と一夜を共にした側女たちも、よくこんな風に自分を恐れ声を無くす事が度々あった。ならば、かろうじて幼い娘だとわかるこの小汚い子どもが、自分の一喝に怯えてしまったとしたら刺客である可能性は低いだろうと殺生丸は考えた。

( この人、恐い!! )

「お前 ―― 」

 なおも殺生丸が問い詰めようとした時、娘は手にしていた竹筒と何かをその場に落とし、洞を飛び出して行った。瞬間、このままこの娘を逃しては自分の身の危険に繋がるかと腰の愛剣に手を掛けかけたが、落としたものに目をやりそのままその手を戻す。洞の土の上には泥を洗い落としたたくさんのヨモギの葉と、同じく洗い清められた草の蔓が何本も落ちていた。

「……手当てしようとしたのか」

 何故、との疑問が頭を過ぎる。あの娘にとって自分は見ず知らずの他人。手当てした事を恩にきせ、何かねだるつもりかとも邪推する。そんな下心の有るような娘なら、次に来た時には虫けらのように切り捨てるだけ。そんな考えが真っ先に浮かぶ、殺生丸の哀しさを本人もまた周りの誰をも気付いてはいなかった。

 洞を飛び出した娘は、今の様子を思い出して体の震えが止まらなかった。今までにも怖い目にはたくさんあってきた。強盗に家族を殺された時も恐かったし、一人で生きてゆく為に街で盗みを働いて捕まった時の、殴る蹴るも恐ろしかった。だけど今のあの人に感じた恐さは、そんなものじゃない。綺麗なだけに、立派なだけに、その中の空っぽさみたいな暗闇が娘には恐かった。こんな所で一人で生きている娘が見ている暗闇とも近いような気がして、それに引き込まれそうな気がした。

( だ、大丈夫、大丈夫だ、あの人! あんなにしっかりした声が出せるんだし、それに ―― )

 娘は心の中で考える。あの人は恐い人。だけど、いやだからこそ、あんな怪我ぐらいじゃ死んだりしない。自分が何かしなくても、きっと大丈夫……。そう言い聞かせ、娘は自分の塒に飛び込んだ。

 朝方止んだはずの雨が、また降り出した。これできっとあの人の血の痕も、崖を滑り落ちた跡も、自分の足跡も消えるだろうと娘は思った。少なくとも、生き残っているかも知れない山犬たちに見つかる事はないだろうと。あの怪我人を手当てしようと色々動き回ったせいか、娘は自分がひどく空腹なのに気付いた。水でも飲んで過ごそうと、ほんの少し前まで思っていたのがとても耐え難く思えてきた。雨の中を街まで出かけるのは億劫だが、このまま野鼠のようにこの穴倉に篭っているのも耐え難い。怪我人を放ってきてしまった自分の気持ちの居心地の悪さに、娘は少し降りの強くなった雨の中に出て行った。


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