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「月華覇伝」
月華覇伝6         (サイト掲載済み)

月華覇伝6-3 

 自ら舌を噛み果てた暗殺者達の始末を弥勒達に任せ、殺生丸はこの晴れない気分を持て余し、気がつくと毒仙の治療院の近くまで来ていた。そこまで足を運んで、ようやくあの娘はあれからどうなったのだろうと思い出した。
 まったく野に棲む鼠か狸か猿のような娘だと思う。薄汚く、すばしっこく、物怖じする事を知らない。血統の良い人に飼われる事を目的に飼育された犬や猫などは、同じ獣であっても殺生丸の放つ気に尻尾を垂らし小さくなったり、あるいはその気配を察すると逃げ出してしまうというのに、あの娘はあろう事か食って掛かってくる始末。それも、この殺生丸の身を案じて。

「……面白いものを拾ったのかも知れぬな」

 ぽつりと口をついた、その言葉。口元は、いつにない表情を微かに浮かばせている。
 そうして殺生丸は診療中にも関わらず、毒仙の診療室にずかずかと入り込んだ。

「どうした、殺生丸。まだ、傷が痛むのか」

 毒仙は入ってきた気配で相手が誰を察し、そちらには目もくれずにそう言う。その手には細長い火のついた線香と毒仙が特別に調合した艾(もぐさ)、背中を見せちょこちょこと艾の小さな山を燻らせているのは殺生丸の侍従の邪見。あの早馬の後遺症か、腰の痛みが取れなくて毒仙の手当てを受けていたのだ。

「せっ、殺生丸様っっ!!」

 その名を聞き、慌てて起き上がろうとした邪見の手や足に燃えついた艾が触れて、面白い踊りを披露する。

「煩いぞ、邪見」

 その一言に、ぴゅっと邪見は上着を引っつかみ診療室の戸口で深々と頭を下げると、どたばたとその場を後にした。

「……年寄りは労わってやれ。お前の為に腰を痛めたようなものだぞ?」
「あれが年寄りなのは、私のせいではない。それに、もともと痛めていた腰だ」

 やれやれといった表情を浮かべる毒仙。

「で、今日の用はなんだ? ワシの治療を受けに来たわけではなかろう?」
「ああ」

 用と問われて、答えるような用向きは無い。気がつけばここに足が向いていただけで、そのついでにあの娘の事を思い出しただけだ。生返事を返しながら、殺生丸は鋭敏な耳を傾け診療院内の音を探った。あの木の洞にいた間、何度もあの娘の足音を聞いていた。あの音なら、もう覚えた。
 そんな殺生丸の様子に、毒仙はにやりとした笑みを浮かべた。

「もしかして、あの娘の事を覚えていたのか? 薄情なお前の事だから、もうすっかり忘れてしまっていると思ったぞ?」
「……………………」
「残念だったな。あの娘は、もうここには居らん」
「居らぬ?」
「ああ、ワシが朴夫人に預けた」

 朴夫人、と聞いて殺生丸の表情が動いた。実母が国を離れている今、実質殺生丸の母親代わりも務めているのが朴夫人である。家臣の妻に過ぎないが、それでも頭の上がらぬ相手である事は間違いない。後宮差配、いわば殺生丸の私生活を全て把握されているといっても過言ではない相手。

「そうか」

 もうこれ以上話すことは無いと言わんばかりに、殺生丸は踵を返した。
 
「なんだ。用件はそれだけか?」
「用件などではない」

 もう振り向きもせずにそう言い、毒仙のもとから立ち去った。

( ……面白いと思ったが、朴夫人の下できらびやかな暮らしをすれば、あの娘も飼い慣らされた猫のようになるのだろう。つまらぬ )

 思いのほか失望感を覚えた殺生丸の顔には、嘲笑めいた冷たい笑みが浮かんでいた。そして、この娘の事は、すっかり頭の中から消し去った。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 
 朴夫人の預かりとなった娘は、連れてこられた屋敷の立派さにただただ目を丸くしていた。大きな門構え、館の玄関に続く小路は趣向を凝らした庭を楽しむように緩やかに曲がりくねり、季節季節の花を愛でることが出来る。今の季節なら風除けの中で豪華に咲き誇る冬牡丹に、赤と深緑の艶やかさが鮮やかな椿の築山、同じ色合いで下草代わりに南天の赤い小さな実。やがて館の玄関が見える辺りには一面梅の木が植えられていた。早咲きの蝋梅がぽつりぽつりと光の玉のような蕾を綻ばせ、高貴な香りが微かに漂っている。
 見事な庭の景観に、しばしば足を止める娘に優しい眼差しを投げかけながら朴夫人は声をかけた。

「今日からは、ここがお前の住まいですよ。ですが、お前は『分』と言うものを弁えなくてはなりません。お前はこの屋敷の主筋でもなければ、正客でもない。だから、裏から入っていらっしゃい」

 優しくても、甘くは無い。
 きちんと娘の立場を教えるのも、この娘の為である。
 娘はこくんと頷き、きょろきょろと辺りを見回した。大きな屋敷なので、どこが裏口か解らない。その様子に朴夫人は館内に向かって一人の侍女の名を呼んだ。

「浅黄、浅黄! この娘を裏口に連れていっておやり」

 屋敷の女主人の言葉に、中からまだ年の頃なら十三・四歳くらいの少女が飛び出してきた。その後に朴夫人から屋敷の内向きの事柄を任された侍女頭も迎えに出てきた。

「お帰りなさいませ、朴太太。では、この子を裏口に連れて行きます」
「その子は口が利けないからね。でもちゃんと耳は聞こえているから、ここでの事をお前から教えておあげ」
「はい。解りました」

 浅黄と呼ばれた少女は娘の手を取ると朴夫人に向かって敬礼し、それから広い庭をぐるっと回って館の裏へと消えていった。

「さて、あの子にまず教えなくてはならない事を整理しなくてはね」

 館を取り仕切る侍女頭を従え、朴夫人は自室へ戻る。ついてきた侍女頭は、訝しそうな表情を浮かべていた。

「朴太太、あの娘は一体どういう娘なのでございますか?」
「ふふふ、お前の目にはどう見えますか?」

 と、侍女頭に問い返す朴夫人。

「……病人、でございますか? あまり育ちが良くないように見受けますが」

 屋敷の女主人が連れ帰った娘だ、下手な事は言えないと、世知に長けた侍女頭は暗に意味をかけてそう答えた。

「はっきり言っても、私は怒りませんよ? お前が見て取ったように、あの娘は育ちが悪い。何しろ辺境の地に住んでいた孤児で浮浪児ですからね」
「まぁ! なぜ、そんな娘をこの屋敷に!?」

 侍女頭のびっくりした顔が面白かったのか、朴夫人はさらに悪戯っ気たっぷりに瞳を輝かせ、十分間合いを取ってこう言った。

「しかも、あの娘をこの都に連れてきたのは誰あろう、あの殺生丸様」
「まぁ、まぁ、まぁっっ!!!」

 言葉を無くすというか、鳩が豆鉄砲を食らったというか、とにかく侍女頭の驚きようは一見の価値があった。くくくっと小さく笑う朴夫人の目にはうっすらと笑い涙が光っている。

「殺生丸様が、あんなちんくしゃな娘を? まさか、そんなはずは……。噂では、辺境に居るのが間違いのような、それは美しい娘に怪我の手当てをしてもらい、それで都に連れ帰る気になられたと聞き及んでいます」
「それは噂。噂は噂、真実ではありませんよ」

 はぁぁと、訳が判らないと侍女頭は不思議そうな表情を浮かべた。

「旅先で何があったかは、いずれ知ることが出来るでしょう。そう、なぜ殺生丸様があの娘を都に連れ帰るお気持ちになったかは、ね」
「はぁ、しかし……」

 侍女頭の胸の中は複雑だ。辺境の地で暮らしていた唖(おし)で孤児で浮浪児、本来ならこの屋敷に足を踏み入れる事も叶わない様な者である。侍女頭の気持ちとしては、出来れば屋敷から下がらせたというのが本音だ。
 しかし、そう、しかし。

( 殺生丸様がお連れになったとなれば、ぞんざいな扱いも出来ないのでしょう…… )

「では、わたくしも浅黄の手伝いに行きましょう。念入りに身支度を整えさえ、殺生丸様との謁見に相応しく、少しでも貴族の姫君のように見えるように」
「まぁ、なぜ?」

 今度不思議そうな顔をしたのは、朴夫人の方であった。

「殺生丸様が連れて来られた言う事は、あの者を後宮に召し上げる為ではないのですか? ならば、それに相応しい支度を」
「お前、それ本気で思ってますか? 見れば分かるでしょうが、あの娘のどこをどう見れば、後宮に侍っている姫君達のようになれると言うのでしょう? 見てくれ以前に、まず幼すぎます。殺生丸様には、そんなご趣味はありませんよ」
「いえ、それはわたくしも……。だから、どうしてだろうと」
「ええ、本当に。何をお考えか、掴めぬお方ですものね。あの娘にしても、おそらく連れ帰ってきたものの、その後の事など多分お考えではなかったのではないかと思うのですよ」
「それは、あまりにも……」

 無責任、と続きそうになった言葉を侍女頭は飲み込み、朴夫人の顔を見た。

「それに、あの娘はどれだけ磨いても、お姫様にはなれないでしょう? 分違いですからね。ならば、あの娘に合った身の振り方をつけてやろうと」
「それは一体、どういうものなのですか?」

 そこで朴夫人はまたも、くすりと笑った。

「あの娘の取っても、そして殺生丸様にとっても決して『悪くは無い』方法を考えています」

 そう言ったあと、朴夫人は侍女頭となにやら打ち合わせを始めたのだった。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 浅黄と呼ばれた若い侍女は、娘の年恰好を見て自分と同じこの屋敷の下働き見習いで預けられた子だと理解した。ただ、それにしては娘の着ている物が病衣なのが気になった。病気の娘を働かせるほど、この屋敷は人手には困っていない。

「ねぇ、あんた。病気なの? それ、毒仙様の所の病衣だよね?」

 浅黄の問い掛けに、娘は袖や裾をめくり殆ど治った傷跡を見せた。そして、にこっと笑う。

「ああ、怪我をしていたんだ。怪我が治ったから、働く事にしたんだね」

 大きくこっくりと娘は頷く。その様は、栗鼠か野うさぎの様で、何と言えない愛らしさがある。

「じゃあ、あたしがいろいろ教えてあげるね。まず、あたし達は下働きだから、滅多な事じゃ表に出ちゃダメなんだよ。表に出る時は、今みたいにご主人様方に呼ばれた時だけ。それ以外は、裏で仕事をしなくちゃね」

 うん、と娘が頷く。

「屋敷への出入りも、裏口からだからね。今から場所を教えてあげる」

 浅黄は使用人の分を守って、美しい庭の景観を損ねないよう、庭の端を木立や山に見立てた大岩の影を選んで歩いてゆく。広大な庭を大きく迂回しながらようやく裏口にたどり着くと、そこには玄関先で別れた朴夫人と侍女頭の二人が浅黄と娘が到着するのを待っていた。

「ご苦労様でした、浅黄。お前は当分の間、この娘の教育係を命じます。お前が知っている事を、この娘にも教えてあげなさい」
「はい。承知しました」

 この浅黄と言う娘は歳若い下働きに過ぎないが、見所ありと朴夫人が見込んでいる娘である。侍女頭の補佐として、いずれ奥向きの用件なども任せる事になるだろう。

「それから……」

 と、朴夫人は後ろを振り返り、侍女頭に用意させたものを娘の前に置いた。それは浅黄が着ているものと同じ、この屋敷の下働きのお仕着せであった。ただ違うのは、そのお仕着せの上にきれいに洗われた、あの赤い絹の組紐とその紐の先につけられた小さな銀の鈴。軽いその鈴は少しの動きでも、チリンチリリンと可憐な音を立てる。またお仕着せの帯には四角い皮袋が縫い付けてあり、その中に大き目の土鈴が入っていた。取り出して振ると、ゴロンゴロンと言う重く低い音が響く。皮袋に収めると、多少動いても音は響かない。

「娘や、お前は声を無くした鳥のようなもの。鳴かねば気付かれぬままでしょう。だから、この二つの鈴をあげます。小さな鈴はお前のいる事を知らせ、お前を呼びましょう。お前は返事も出来ぬから、替わりにこの大きな鈴で返事をなさい」

 娘は少し緊張した表情で朴夫人を見つめ、真剣な瞳で頷いた。

「それにしても、名がないのは不便なこと。お前は、今日からこの鈴に因んで『りん』と呼びましょう」

 娘はびっくりしたような顔をしたが、自分でもその名が気に入ったのか飛び切りの笑顔で、さっそく大きな鈴を鳴らした。
 こうしてりんは、浅黄に屋敷での下働きの色々を教えてもらいながら、暮らすようになった。その傍ら、侍女頭ややはり朴夫人付の才のある侍女たちの手隙な時などに、読み書きも教えてもらった。鈴の返事だけでは足りない用件もこの先出てくる事を見越しての、朴夫人の計らいだった。飲み込みの良いりんは、まだ文盲の多いこの時代に少しずつ知識を蓄え始めていた。
 
 知らない事を学ぶ楽しさや、任された仕事をやり終えた達成感など、幼いりんを良い方向に成長させる機会をたっぷり与えられ、りんは持ち前の賢さと快活な性格をぐんぐん伸ばしていった。屋敷に随分慣れたと言っても、最初に朴夫人に言われたとおりきちんと『自分の分』を弁え、狎れる事無く礼儀正しい申し分の無い使用人に成長しつつあった。


  * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 あれだけ放浪癖のあった殺生丸はあの暗殺事件からこちら、いつにないほど長期間の王城暮らしをしている。暗殺事件の首魁を手繰る手立ては、残った暗殺者達。それを方や僧兵達は止むを得ない選択で持って切り殺し、此方殺生丸自ら尋問した暗殺者達は殺生丸に呪詛の言葉を残して自害した。
 闘犬をけしかけられた時の状況を分析すれば、かなり大掛かりな組織が動いている事は間違いない。あの爆裂する箱といい、見たことも無い大型で獰猛な犬達といい、そしてあの人数。

「心当たりがありすぎて、絞りきれんな」

 弥勒や琥珀が調べてきた書面を読みながら、己を嘲るように呟く。左腕は一年経った今も動かず、それもあって、以前のような気ままな忍び歩きも出来なくなっていた。もう一度、琥珀があの町まで出向き調べてきた書面には、不審な男達の集団が飲食をした際に香麗の貨幣を使ったとあった。その後、その集団をつけた町の者にも話を聞くことが出来、その集団は荒野で三手に別れ、うち一方は香麗に向かったと聞き出してきていた。

「香麗、か。黒幕が香麗にいると見せかけるにはあざと過ぎるほどだが、それすらも計算のうちかもしれん。厄介なことだ」

 そう考えるのは、現在香麗には後継者がいないからである。現国王は、狛與王妃でもある。闘牙王亡き後、王妃は誰とも再婚をしなかった。香麗王家の血を引いているのは殺生丸だけである。どうやら香麗国王の考えは、殺生丸にこの香麗を継がせたいと考えている節があった。

 ここで、もし殺生丸が亡き者となった場合、香麗はどうなる?

 まだ十分若い現国王に、新しい夫を迎えさせ後継者を産ませることは可能だろう。だが、先の叛乱でこの国王を除き、王家の人間が全て殺されたような事情がある。現国王を葬り、一気に国家転覆させる好機となるのだ。
 それだけではない。狛與の次期国王を殺そうとしたなどと国民に公になれば、いくら母の国であっても開戦は避けられない。

「そうなれば、今度は母と合戦をしなくてはならんのか。怖ろしい話だな」

 狛與の王位継承者は殺生丸の他に、第二皇子として犬夜叉がいる。
 犬夜叉が王位を狙っているなら、今回の事件もその周辺を探ればなにか出てくるだろう。だが、あの犬夜叉の事、その周囲で画策するものがいたとしてもおそらく本人は一切関知していない。

「……それでも、もしそれが明らかになれば、犬夜叉の身をそのままにしておく訳にはいかない」

 古代の王位継承争いは、すなわち兄弟での殺し合いに他ならない。
 本人が望んでいなくても、そうなる。

 血腥い風が、強く殺生丸の周辺で吹き荒れ始めていた。
 その風の中、ただ一人で立っている。
 それが王者として生まれついたものの宿命だとしても、あまりにも過酷であった。
 どこにも安らぎのない日々が、殺生丸の本質を歪めてしまう危険さえ孕んでいた。

 コンコン、と後宮内の執務室の扉を叩く控え目な音がした。
 続いて聞こえた、朴夫人の声。

「失礼致します。新しく殺生丸様付きの小間使いとなります者を連れてまいりました」
「小間使い? 要らぬ。琥珀や弥勒で事足りる」

 書面から顔も上げずに、にべもなくそう言って切り捨てる。
 警戒心の強い殺生丸は、側に置く者も限定していた。後宮での乱行が知れ渡ってしまい、普通の宮女や侍女くらいでは怖がって、側使いにならないのだ。後宮に篭る事がなかった今までなら、どうにかやり過ごせていたものも、この一年の王城暮らしで色んな所で差し障りが出始めていた。

「信用ならぬ者を置くくらい、愚かなことはないからな」
「その点でしたらご安心を。よく気が付く、口の堅い娘ですから」
「口が堅い?」

 口が堅いと言う者ほど、口が軽い。
 朴夫人の言う「口の堅い者」の顔を見てやろうと、殺生丸は顔を上げ、にっこりと笑っている朴夫人の方へ鋭い視線を向けた。

 その朴夫人の背後に、控えた小さな影。

 大きなつり目がちの黒い瞳、少し癖のある艶やかな髪、桜色に上気した幼い曲線の頬。

「お前は……」
「りんと申します。幼いながら良く気が付き、口の堅さは言うまでもありません。りんは殺生丸様のお側に仕える事を、なにより喜んでおります」

 その言葉に偽りがないのは、りんの嬉しそうな様子が雄弁に物語っていた。
 後宮宮女の大人っぽい装束を小さく作り直し、動きやすいように工夫したものを着込み、頭は片側だけを赤い組紐で結い、腰には四角い皮袋と硯石で作った石版を下げている。

「確かに、口は堅いな」
「はい。お側に居る時には、この小さな鈴の音が知らせます。離れた所から呼ばれる時には、この大きな鈴で返事とします」

 朴夫人はそう説明しながら、りんの腰につけた皮袋から大きな土鈴を取り出した。

「鈴の返事で事足りない時は筆談も出来ますので、この石版に書かせるようにいたしました」
「文字が書けるのか?」

 殺生丸はつい意外に思い、そう尋ねていた。

「頑張ったのですよ、りんは。本当に賢い子です」

 朴夫人の言葉にりんは顔を赤らめ、そしてほんの少し誇らしそうな様子を見せた。
 殺生丸は荒涼とした風景の中、上を向いて力強く咲いている名も知らぬ野の花を見つけたような、そんな心持ちがしていた。

 
 
 

 
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