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「月華覇伝」
月華覇伝1         (サイト掲載済み)

覇伝1-1 


【 月華覇伝 1 】


 隙の無い身のこなし、長身の青年の眸に映る国境沿いの風景は、荒涼たる様を呈していた。遠くに天山山脈を望み、草木もまばらな乾いた大地。かつての戦乱の痕が未だ癒えることなく、あたりの景色を抉っている。

 そんな土地でも、いやそんな土地だからこそ行き場の無い難民のような者達が吹き溜まって住み着いていた。家らしい家もなく田畑を作った跡もあるが、焼け落ち荒れ果てている。戦乱で焼け落ちたのではなく、ここに住み着こうとした農民からならず者が収穫前か、収穫後にその田畑の持ち主の命ともども奪ったのだろう。そこだけではなく、その辺り一帯がそんな様相を見せている。その隣の放置された田畑を囲む竹垣には、時がたって黒ずんだ血糊が着いていた。農民らしき男が力なく地面に座り込み、虚ろな眼差しでただ茫洋と辺りを見ていた。時折ゴミのような物を口にしては、深い絶望の淵に沈んでゆく。

 国境と言ってももともとの国境ではない。前国王が存命中に武力統合した敵国のその辺境。王都のある本国に接している地域はそれなりに馴染んできた感もあるが、このあたりまで来ると旧体制の名残が燻っている感じがある。併合される前からこの辺りは、切り捨てられたきた土地であった。
 ほとんど作物が取れないことから農民が住むには地獄のような土地。しかし、そんな荒れ果てた大地の底には鉄や銅などの武器を作るのに重要な資源が埋まっている事を知っていた前統治者によって、この辺りは使い殺し用の流刑地として扱われてきた。

 巨大な利権を生み出していた土地。狛與国王が平定した後、この土地はそこに住んでいた農民に開放されたのだが、今でもその当時うまい汁をすすっていた寄生虫どもが徘徊している。おりあらば、閉鎖された鉱山を奪い、また元のようにと考えている輩も多い。このきなくさい臭いが消えないうちは、国を平定したとはいえないだろう。まだ大国としての『狛與』は道半ばである。


「……ここは辺境の地域でも特に治安の悪い所です。あまり長居される事はなさいませぬよう」

 その青年の傍らには一人の少年。まだ年少ながら鎖鎌の名手との呼び声も高い侍従。武人としての評価の高さに反し、その性格はとても穏やかで腰の低いものであった。その侍従の姉も、また武道の達人。今ではほとんど主のいない後宮の警護主任を務めている。

「……それは、姉からの命か? それとも朴夫人の言葉か」
「殺生丸様は、王となられるお方でございます。一国民としての、私の言葉です」

 まるで姉や朴夫人の使いっ走りのように言われて少年武人、琥珀は少し憤慨した。殺生丸の武人としての腕前は、今では国内並ぶものは無い。それだけに琥珀も武人の端くれとして、少しはそう殺生丸に見てもらいたいという気持ちがあった。自分の主であり未来の国王に、大いなる尊敬と憧れとそれとほんの少し芽生え始めた『男』としての矜持のようなものが入り混じった心境を抱いていた。

「荒れた地だな。かえって私に似合いかもしれぬ」

 そう呟いた殺生丸の眸にも、どこか荒んだと言うよりも凄愴の気が揺らめいている。狛與の第一皇子である殺生丸。その武人としての評価はまた別の尊称をも彼に与えていた。

 武神、あるいは闘神と。

 ただしそれは、『破壊神』・『殺戮神』としての意味合いも持っていた。生まれながらに王となるべく生まれ、幼くして王位につくことになった。未だ『皇子』と名乗っているのは、殺生丸自身まだ納得していないからだった。

 『王』となる事に、どれだけの意味があるのか?
 『王』たるとは、どういう事なのか?

 偉大な父母の恩恵も、幼い殺生丸にはあまりにも重圧過ぎた。加えて幼い故に、何度も狙われたその命。いつも笑顔を見せて世話をしてくれていた侍女や学ぶ事を教えてくれた教師や、武術指南役の中にも暗殺者は紛れ込んでいた。
 殺生丸を葬る事で利益を得る者…、母の国の人間からでさえ、殺生丸は命を狙われるのである。殺生丸が亡き者になれば、当然にして狛與王妃である香麗国王が二国を統治して然るべきとの論を押すものも多い。もちろん、そんな事を国王にして殺生丸の生母の前で言おうものなら、四肢を車裂きの刑に処されても誰も国王を非難できないだろう。

 そして現在、一番執拗に殺生丸の命を狙っているのは、今は亡き公妃の国の残党からであった。前国王・闘牙とこの公妃との間に生まれた第二皇子・犬夜叉を立てて、祖国復興を願う者達。
 血の繋がり故に、その忌まわしさを幼い時から肌を切られるような鋭利さで感じてきた殺生丸は、いつしか心を凍てつかせたような性格になっていた。己にとって敵と判断すれば、完膚無きまでに叩きのめし、死に至らしめる。周りの人間など、とるにならぬ虫けらのようなもの。己が己であるために、貪欲なまでに『強さ』を求めるような性格になっていた。

 己の宮殿内でさえ、心を癒せる場所は無い。仕える人間が多いほど、危険因子も多く紛れ込む。無数にある宮殿の部屋のどこかに、いや直ぐ自分の隣の部屋にさえ刺客は潜んでいるかもしれないのだ。
 殺生丸はいつしかそう己の状況を判断した時から、『眠る』と言う行為すら控えるようになった。人間であれば眠らずには生きては行けない。それでも、その生存に必要な時間でさえ最低限に削り、常に神経を鋭敏に研ぎ澄ませていた。他にも人間の欲として上げられる『食』も毒殺の可能性を考え、よほど信用できるものしか口にせず、足りない栄養はこれまた父の代から仕えている仙人の薬老毒仙の手になる仙薬で補っていた。そのせいで、ほとんど宮廷内では食事をとらない有様。残るもう一つの欲も ――――

 殺生丸に最初の側女が贈られて来たのは、殺生丸が十三の年だった。贈ってきた相手は母の国の重臣にして、何かとこの国の事について母に進言している煩い男だった。その男が贈って来たのは他の誰でもない、その男の実の娘。殺生丸よりも少し年上の、なかなかに美しい娘であった。母の国にいれば、それ相応の身分の家臣の令夫人に納まってもよさそうな家柄と美貌と賢さを持っていた。
 それが時期国王ではあるが、まだ十三歳の殺生丸の元に側女として入って来た理由はただ一つ。

 この後、自分が正妃になろうがならないだろうが、他のどんな女よりも先に狛與の後継者を生まんが為。それが意味するのは ――――

( ふ…ん。狡賢い狸と狐だな。私の血を引く子があれば、いつこの私を亡き者にしても事は上手く運ぶと言う段取りか )

 あわよくば、その娘の産んだ子を立てて第二皇子である犬夜叉一派を押さえ込み、自分は国母の父としてこの国を支配しようという腹だろう。

( それには、私がまだ子どもであるうちに女漬けにしようという薄汚い企み。だが、そうは行かぬ )

 既に殺生丸は齢十三にして、愛欲の地獄も覗かねばならなかった。贈られた娘が「その手」の教育を施された娘である事は、その仕草立ち居振る舞いに現れていた。狙った男を落とす為の手練手管、その為に磨いた美貌や艶かしい肢体。甘い声や蕩けそうな笑顔。並みの男であれば、すぐにのぼせ上がってしまうだろう。

 煩わしくて、何かと理由をつけてはその娘に会うのを避けていた殺生丸だが、それを不服としたその娘の父親がある事無い事言い出して、それもまた煩わしくなってきた。放っておけば、母の国とこの国との国交にも差し障りが出てきそうな雲行きになってきたため、いやいや殺生丸は態度を決めた。
 後宮にあてがったその娘の房を訪ねた時の、娘の娼婦のような笑み。どんな男も自分の美貌と躰で堕せぬ事はないと言う自信に溢れていた。ましてや女の事など知らぬ子ども相手では、最初から勝負は見えているとどこか嵩にかかったような風でもあった。

「ああ、嬉しい! ようやく訪ねてくださったのですね、殺生丸様」
「…………………」

 媚びたような、その甘ったるい声。良く出来た作り笑顔。返す言葉もなく黙っていると、何を勘違いしたのか娘は淫蕩な光を瞳に浮かべ、しな垂れかかってきた。

「大丈夫ですわ、殺生丸様。誰にも『最初』が御座います。私がこの身をもって『女』というものをお教え致しますわ」

 勝ち誇った笑みを浮かべ、殺生丸の手を取ると自分の豊満な乳房に触れさせる。それが殺生丸の逆鱗に触れた。もともとまったく気乗りのしない訪れ、そんな殺生丸の前で自分が優位なように振舞ったその娘の愚かしさ。
 殺生丸は表情も変えず、娘の柔らかな乳房に爪を立てた。渾身の力を込めて、爪で滑らかで薄い皮膚を引き裂くように。

「い、痛い! 痛いですっ!! 殺生丸様!!」

 思わぬ激痛に娘が身を翻し、うずくまると両手で自分の胸を庇った。間を置き、息を整えると先程よりも少しこわばった笑顔で殺生丸に声をかけた。

「…初めてで加減がお判りにならなかったのですね。殺生丸様のお気持ちも判りますが、あのように強く掴み締められては痛うございます。もっと、優しく――― 」
「黙れ」

 なおも言い続けようとした娘の声を遮り、殺生丸は上から見下ろすようにその娘の顔を見た。まだ子どもと侮っていた娘の体に、初めて言い知れぬ震えが襲う。

「殺生丸様……」
「私は誰の指図も受けぬ。お前をどう扱おうと、私の勝手。今まで待たせた分、存分に付き合ってもらおう」

 びくっと、娘はその様子に気圧された。年少とは言え、その美貌や覇気は両国王譲り。それが今、怒りを伴って娘に向けられていた。必要であれば閨で男の寝首を掻く事も厭わぬような閨房術を仕込まれた娘が、まるで獅子に睨まれた鼠のようにその身を硬くして細かく震えている。

 そんな娘の様子に一切構わず、胸元に腕を伸ばすと娘の纏っていた薄絹の夜衣を引き裂き、裸に剥いた。恐怖で後ずさろうとする娘の髪を鷲づかみ引き倒すと、その上に圧し掛かっていった。

 この場でも、『勝つ』事しか考えない殺生丸。相手の娘がどんな事になろうと激しく責め上げ、自分の気が済むまで陵辱し続けた。


 子どもであって子どもでない ――――


 そんな生き方しか出来なかった、許されなかった。どこかでそんな自分の境遇への腹立たしさもあったのだろう。 怒りに任せ一晩中責め続け、相手の娘が半死半生になったところで襤褸のように放り出した。とても閨事の痕とは思えない酷い有様。全身の痣や生傷もだが、疾うに散らした筈の初花を思わせるような鮮やかさで、娘の下腹は彩られていた。
 たった一晩の性交で娘は体を壊してしまい、早々に後宮をあとにした。その夜の恐ろしさが身にしみたのか、何をされたかは誰にも語ろうとしなかったと言う。それからも何人もの女たちが後宮に送られてきたが、皆最初の交接で手酷い目に合い、本来なら主たる殺生丸の寵を争う場である後宮で、殺生丸が姿を見せるとどの女たちも息を潜め自分の所へ足を止めることがないようにと、祈るようにすらなっていた。

 『強さ』を求めるが故に、ますます孤独になってゆく殺生丸。そんな後宮も宮廷も殺生丸にとっては煩わしく、息苦しいもの。折を見ては城を出、漂泊のままに辺境を流離う事を好むようになっていた。

 まだまだ国としては治まりきってはいない国内。決して身分がわかるような身なりではないにも関わらず、あたり構わず放射される殺気のようなものに引き寄せられるのか、同じような気を持つ者とよく立ち会う事になる。

 時には一人と、時には多勢と。

 そのどんな時でも殺生丸の剣技が劣る事はなく、疾風のように剣が舞ったあとには鮮やかに切り捨てられた無法者や暴漢の死体が転がっているのだ。この頃ではむしろ殺生丸は女を抱くよりは、こうして血腥い修羅場で剣を振るっている事の方が快感だった。そんな殺生丸の振る舞いを見て、密かに国内にも不穏な噂が流れ始めていた。つまり ――――

 このまま殺生丸が国王としてこの国に治め始めたら、戦乱に明け暮れる事になるのではないか? 王の機嫌を損ねた臣下はことごとく手打ちになるのでは…。それは先の闘牙王が自分の国の近隣諸国の悪政を見かねて兵を挙げ、諸国を併合平定してきた事を無にする事でもあった。


 狂王の恐怖政治 ――――


 どこかでその言葉が一人歩きを始めていた。本当の殺生丸の姿を知る者は、ほんの僅か。その者達の言葉だけではもう取り消せないほどに、『その姿』が確立しつつあった。


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