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「月華覇伝」
月華覇伝4         (サイト掲載済み)

覇伝4-2 



 邪見が都に救援を呼びに行き暫く経った頃を見計って、琥珀もその現場を離れた。今は残りの見張りを自分の前後に張り付かせながら、町への山道を下っている。琥珀自身も念の為、その道すがらの人が身を隠せそうな場所には注意しながら歩いている。

( ……これで、あの現場にはもう見張りは残っていない事になるけど。殺生丸様は動かれるだろうか? )

 もちろん殺生丸が土砂の下敷きになってはなくて、なおかつあの現場付近に身を潜めていると仮定してだ。かなり楽観的予想を含んだ見通し、こちらの動きが殺生丸に伝わっていることが前提になっている。

( 町に戻ってどうするか? 邪見様の戻りを待つふりをするか、町で食糧や土砂を掘る為の道具を買ってまたあの現場に戻るか )

 琥珀の考えでは現場には戻りたい。だけど、見張りは撒いておきたい。これは自分の中で動かしがたい決定事項。町に入る手前で、親に捨てられたのか死に別れたのか浮浪児の群れに出会った。自分とあまり変わらない年頃の男の子ばかりが五・六人集まっている。皆が皆、琥珀の姿を粘ついた視線で睨みつけている。隙があれば、今にも襲い掛かってきそうだ。

( …あの町は柄が悪いからなぁ。子どもが一人で宿を取ろうなんてすれば、身包みはがれてどこかに売り飛ばされそうだし )

 町に戻ったとして、その後の行動を頭の中で思い描いてみる。出来れば食事を取りどこかで少し体を休めたいと思っているが、その為の宿はおそらく諦めた方がいいだろう。幸いまだ日も高いし、廃屋か寺の門前の片隅でも良いかと考えを切り替える。物騒な町で暗くなってからでは、そこの住人がどれほど豹変するか判らない。明るい内ならいくらかマシだろう。本来ならそんな時間さえも惜しまねばならぬのだろうが、それをしなかったばかりに本当に力が必要な時に役に立たなかったら意味がない。あれこれ考えていると、その浮浪児の群れが自分の後を付いてくる。

「……使えるかもな」

 何か思いついたのか、琥珀は小さくそう呟いた。

 旅姿とはいえかなり身なりの良い子どもが一人、こんな辺境の町を歩いている。もうそれだけで、町の人間の眼は琥珀に集中していた。食べ物を売る店で茶や饅頭、干し果物などを買おうとして店先で待っている間も、じろじろと不躾な視線で値踏みされている。その視線の中には山の中から付いてきた見張りの視線と、野獣の仔のような浮浪児の視線も混じっていた。

 最初に仕掛けてきたのは、その浮浪児の群れ。琥珀が手にした食糧と、懐の金袋から着ている物まで全てを狙っている。ばらばらと散開し、琥珀を取り囲む。一見琥珀は気弱そうな、腰の低い雰囲気を持っている。それが浮浪児たちには、良いカモのように思えたのだろう。

「おい! お前!! 命が惜しけりゃ手にした食いモンと金と着物を置いていけ!!」
「いやだよ。俺は腹が空いてるし、金は旅の途中では必要だ。着物もこの季節に裸は勘弁して欲しい」

 見てくれの優しげな感じからは予想もしない、淡々とした答えが返ってくる。

「嫌だろうがなんだろうが、そう俺達が決めたんだ! 逆らえば、半殺しの目に遭うぞ!!」
「やれるならやれば? 俺、先を急いでるんだ。腹ごしらえして、少し休んだらすることがあるんでね」

 何人もいる浮浪児に臆する事無く、その場を通り過ぎようとする琥珀。浮浪児達はその自分達を小馬鹿にしたような態度にぶち切れた。

「……おい、面白い事になってきたな」
「ああ、俺達が手を出すまでもないってか」

 琥珀の動向を探っている見張りの男達が、囁きのような声で会話を交わす。

「ふむ。あいつもああ言ってたが、俺達にも食い物と休憩は必要だな」

 琥珀の言葉に触発されたのか、男達の一人がそう切り出した。

「お前達二人は、このままあいつを見張れ。しばらく町から出ないだろうし、もしかしたらもう出られないかもしれないからな。俺達はさっきの店で腹ごしらえをしておく。動きがあったら店に連絡に来い。そうしたら交代してやる」

 子どもの喧嘩には興味はないと、残った面子の中の一番手がそう指示を出す。最初に貧乏くじを引いた二人は、一瞬顔に出そうな気配を直ぐに消しその指示に従う事にした。
 話が決まれば、あとの行動は素早い。見張りの二人だけを残し、他の曲者は店の中に入っていった。

「…っの野郎っっ!!」

 琥珀の前に立ちはだかった、一番体格の大きな少年が琥珀に殴りかかる。側面・後ろの少年達は琥珀が逃げられないよう間合いを詰めた。琥珀が態勢を崩し、しゃがみこむか倒れ込むようならそのまま勢いに乗って皆で総殴りにしようという腹だろう。
 もしそんな事になれば、治安の悪い辺境の町で旅の少年がその町の浮浪児達に襲われて命を落とした、あるいは大怪我をして動けなくなったという良くある話になるだけだ。

「……上手い具合に絡まれてくれたもんだな」
「あいつがここで足止めされるなら、土砂の下の死体を確認しやすくなるって事だしな」

 見てくれはどこか気弱で頼りなさそうに見えても、あの殺生丸のお忍び行の従者を務める者でもある。大人でも生半可な武芸かぶれくらいでは、今の琥珀の相手にもならない。だからいくら人数が多くても、暴力は知っていても武芸を知らない相手に琥珀が負ける訳はなかった。
 目の前の相手が琥珀の顔面を殴った、と思った瞬間に琥珀の姿が消えた。勢い余ってその拳は、琥珀の後ろに詰めていた浮浪児仲間の顔の真ん中に命中していた。その子は鼻血を拭いて仰向けに倒れる。

「あ~あ、仲間殴っちゃったね」

 呆気に取られている浮浪児達が、下から聞こえる琥珀の声にはっと我に返り足元を見ると、腰の位置くらいの所にしゃがみ込んだ琥珀がいた。これは好機と、上から残りの浮浪児達が一斉に殴りかかる。殴る事だけに気持ちが集中して、足元は丸っきりお留守。普段の琥珀からはあまり想像できない不敵な笑みを口元に浮かべて片足を軸に急転し、その態勢のままもう片足の先で浮浪児達の向こう脛を思いっきり叩きつけて行く。琥珀の沓には仕掛けがしてあって、実戦において蹴りの威力を上げる為、爪先に鋼の板を仕込んでいる。
 浮浪児達が脛を抱え地面を転がる中、琥珀はすっくと立ち上がりその子たちを見下ろしながら言い捨てた。

「人は見かけで判断しない方が良いよ。お前達じゃ俺には絶対勝てないしさ。悔しかったら、また襲ってきても良いよ? 俺、あそこの廃屋で暫く休むから」

 足の痛みでうーうー唸る浮浪児達に憎らしいほどの余裕を見せて、琥珀はその場から歩き出した。

( ……これで、あいつが乗ってきてくれると良いんだけどね )

 唸る浮浪児の中で一人だけ、比較的手加減されていた者がいた事に見張りの二人は気付いてはいなかった。

「やっぱりガキでもあいつの従者だけはあるな。浮浪児くらいじゃどうにもならんか」
「それでもあいつがあそこで休む間は、俺達も一息つけるな」

 先ほど言ったとおり、琥珀が廃屋に入り込んでゆく。不眠不休は大人でも辛い。それがましてや、琥珀のような子どもでは。先ほどの琥珀らしくない嫌味な物言いも、その疲れからだろう。

「おっ、見ろよ! 浮浪児の中にも骨のある奴はいるみたいだぜ」
「へぇ、一人で仲間の敵討ちかね? また、やられるだけだろう」

 あまりの痛みで悶絶している仲間や動けずにいる仲間もいる中で、その子だけは足を引き摺りながら琥珀が休憩に使っている廃屋に忍び寄っていった。その手には、途中で拾った先の尖った石を握り締めている。

「石ぐらいじゃ、どうにもならんだろ」
「やらせておけ。俺達が止める筋合いもなし、あいつが万が一不覚を取って怪我でもすれば、こちらにとっては都合がいいしな」

 完全に傍観者気分で事の成り行きを見ている。その浮浪児はそっと廃屋を覗きこみ、中の様子を伺っている。先の言葉がそのままなら、琥珀は腹ごしらえの後少し睡眠を取るつもりだろう。寝入った所を襲えば、あるいは……。

「あ、行ったな」
「さぁ、どう出るやら」

 浮浪児が寝入ったらしい琥珀を襲う。廃屋の中で争うような気配が揺らめく。

「ぎゃっっ!!」

 そんな叫びと共に、あの浮浪児が廃屋からよろけながら出てきてその場を去って行った。そのまま廃屋の中は静かになる。その様子を見ていた残りの仲間達も動ける者は這うようにして、その場から消えた。見張りは琥珀の様子を確かめる為に、気配を殺し廃屋の中を伺い見る。廃屋の瓦礫の中、外の光が入らないようなガラクタの片隅に顔を隠すようにして入り口に背を向け、琥珀は横になっていた。よほど鍛錬しているのか気配をまったく感じさせない、休眠の取り方だ。

「あの様子じゃ、陽が高いうちは休むつもりだろう。物騒な所で夜、気を抜くことほど恐ろしいことはないからな」

 どこか自分たちも休憩したい気持ちが出てくる。先に休んでいる仲間もいると思えば、ここでの注意力が若干緩んだとしても仕方がない。そう琥珀を一人で襲おうとした浮浪児の背格好が、琥珀と同じくらいだったと言う事に。

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( 上手く見張りの眼は誤魔化せたみたいだな )

 浮浪児の着ていたものと自分の着衣を素早く取り替え、気を失わせたその子を自分の身代わりにして、廃屋を抜け出す。このままあの現場に戻り、探せなかったあの周辺をもう一度良く探してみようと琥珀は考えていた。
 気配に敏感な琥珀だが、それを消されていては離れた所からだと見つけるのは無理だ。あいつらも探しただろうけど、自分のこの目で確かめるまでは納得出来ない。ここにはないと言う思い込みほど、「さがしもの」をする時に目をくらまさせるものはないのだ。

 そして、再び山へと向かうその道で二人は出会うのである。

 山の中から飾り帯をしっかり手に持って、その娘は道を駈けて来た。駈けて来たが、町に入る手前で足が立ち竦む。ほんのついさっき、自分はここで饅頭を盗もうとして町中の人間から追われ、殴られ蹴られた。見つかれば、また同じ目に遭うかもしれない。それよりも、この大事な帯をあのお爺さんに見せる前に取り上げられたら、取り返しの付かない事になる。そんな娘の躊躇いに似た考え深さが、琥珀との出会いに導いたのだ。

( どうしよかな…。町の中で物陰に隠れて待つよりは、あのお爺さんが帰ってくるのをここで待ってた方が良いかな )

 昼下がり、町外れの道で近い年頃の浮浪児がすれ違おうとした。娘はこちらに歩いてくる浮浪児を見つけ、道を避けようとする。同じ浮浪児でも、その世界はまさしく弱肉強食。娘は自分が弱者の側だと知っている。巻き上げる獲物がなければ腹いせに、暴力を振るわれるのはいつもの事。歳がもう少し上がればまた別の使い道もあるだろうが、今はただ殴る蹴るの憂き目に遭わされる。だから、娘は自分の身を守る為にその本能にも似た『直感』を磨いていった。自分に取って危害を加える相手かどうかを一目で見抜く、その『力』を。

( ……見たこと無い子だ。どこか他所から流れてきたのかも。なんだろう? 浮浪児なのに浮浪児らしくない感じの子だね )

 娘は避けながら、そう琥珀を判断した。同じく琥珀も、自分を見るその娘の視線に気が付いた。やせっぽっちでぼろぼろの着物。体中殴られた痕や痣が残っていて、体だけではなく顔も酷い状態だった。

( 女の子、だよな? 酷い目にあったんだな…、こんな小さな子なのに顔が腫れるまで殴られたんだ。口も切れてるみたいだし、目も見えないくらいだよ、あんなに腫れてちゃ )

 琥珀もあまりの酷さに思わず視線を留め、それからそんな目で見てしまったことを申し訳なく感じながら視線を逸らそうとした。逸らそうとした視線の片隅に、その子が握り締めていた手の中の色が天啓のような閃きと共に飛び込んでくる。

( えっ? 今の色、黄に深紫だったよな。それって ―――― )

 その二色を身にまとう事を許された者は、皇位を継ぐ者だけ。つまり ――――

( この子、殺生丸様の行方を知っている!? )

 思わず目を見開き、改めてその子を見る。娘は手にした帯を隠すように自分の後ろに回し、身を硬くした。娘の様子はまるで怯えた山の小動物のようで、おどおどした感じがある。しかし、怯えながらも琥珀を見るその娘の瞳は、虐げられた者の哀しさはあっても卑しい光はなかった。


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