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「月華覇伝」
月華覇伝4         (サイト掲載済み)

覇伝4-1 


【 月華覇伝 4  】


 見かけによらず忠義深い性格の邪見は、その小さく老いた体に走らせる馬よりももっと鞭打つような気迫で都に駈け戻った。宮中の広間に倒れるように辿り着くと、殺生丸の執権であり父母の去ったこの宮廷での親代わりでもある朴大人に声を潜めて事の次第を告げた。

「……そうか。ではその場には琥珀が残っているんじゃな?」
「はい。琥珀が申すには、殺生丸様の安否を確認してからと……」

 邪見にしても、あの目の当たりにした惨状からどんな形でも良い、殺生丸が免れていればとそれだけを祈るように思い続けて都に駈け戻ってきた。安否の「否」など考えたくも無い邪見である。

「琥珀は中々目端の利く子じゃ。あれがそう言うのであれば、最悪の事態だけは免れていよう」
「…なんでもあの辺りに不審な者どもの気配を感じるとか。ワシらを見てもその気配がその場を去らぬのは、敵も殺生丸様の生死を確かめられてないからじゃろうと」
「敵、とな?」

 ぴくりと朴大人の考え深げな目が光る。経験豊かで思慮深く博学である大人の物腰は、それはもう歳経た大木のような安定感と穏やかさに満ちているが、その実若い頃は猛将としても名を馳せたほどの武人でもある。今、大人の目に宿る光は、武将としての光。

「琥珀はそう見ているようで。実は……」

 と言って失礼を先に詫び頭を下げたあと、大人の側に寄り耳打ちをする。他に聞こえたらまた別の火種ともなりそうな事柄を、声を潜めて邪見は伝えた。

「あい判った。すぐに琥珀の姉の珊瑚と、参謀補佐の弥勒を呼べ」

 邪見の報告に、朴大人はすぐさまこの二人を呼び寄せるよう近衛兵に指示を出す。呼ばれた二人の名を聞いて、やはり邪見はなんとも言えない様な表情を浮かべた。琥珀も出来るならこの二人にも仔細を伝えて欲しいと言っていた。だが邪見にすれば、殺生丸に仕えながらその異母弟の犬夜叉とも懇意な二人を、どこか疑っている所があるのは否めない。
 殺生丸と犬夜叉と、この二人が並び立ったとしたら弥勒と珊瑚は犬夜叉の側に付きそうな気がして仕方がないのだ。殺生丸を亡き者とすれば、当然この国の次期国王は犬夜叉と言う事になる。ならばこの一件が何者かの企みだとして、それに弥勒と珊瑚が加担してないと誰が言い切れるだろう?

「あの…、その二人に事の仔細を伝えて本当に大丈夫じゃろか? もし、この二人も敵に通じておるなら……」
「邪見、お前も殺生丸と同類じゃな。己の周りは皆、敵と思うておるのか? そんな目で物事を見ているうちは、本当の味方など持てぬじゃろうて」
「……そう思いたくもなりますわい。殺生丸様にすればお命を狙われる事、数え切れず。うっかり相手を信用なされば、それは直ぐお命に関わります」
「上に立つ者の宿命よな。誰にも負けぬ為にひたすら武術を極め、毒を盛られても平気なように少しず毒を飲み、身のうちに毒を飼い慣らし……。己が居城ですら安住の場所ではないと、漂泊の旅を好む。どこまでも『孤』であろうとするゆえ、まわりは敵ばかり」

 王者の孤独、とでも言うのだろうか。そう生まれついた星は変えようも無い。しかし、己として大成するには、それを乗り越えねばなるまいと朴大人は思っていた。いつかどこかで『心から信頼に値するものに出会えること』、それが殺生丸を大きく導くだろうと。

「あの二人なら、大丈夫。まぁ、腹芸上手な弥勒なら相手を騙す事も煙に巻く事もあろうが、珊瑚にはそれはない。頑固なまでに真っ正直な性格じゃから、二心あるような者には容赦はないからのぅ。心底惚れた相手がそんな娘じゃ、弥勒も真面目になるしかない」
「……大人もそう申されるのであれば、ワシももうこれ以上は差し出がましい口は出しますまい」

 そんなやりとりをしている間に、先ほど弥勒と珊瑚を呼びに行かせ近衛兵が二人を連れて戻ってきた。その近衛兵にはその場を下がるよう言いつけ、朴大人が二人を差し招く。大人の側の邪見の様子を見咎めて、弥勒と珊瑚の二人は互いの胸に湧いた不安のような疑問を言葉を交わす事無く確認しあった。

「呼びつけた早々であるが、困った事が起きた」

 前説明も無く、端的にそれだけを口にする。それだけで、この二人には大半の意味が伝わっていた。

「困った事…。お戻りになった邪見様のご様子から、城の者も何か起きた事を感じているようです」
「お戻りになったのは邪見様だけ。殺生丸様と弟の琥珀は…?」
「お前達だから、腹蔵なく言おう。殺生丸様が旅先でお命を狙われた」

 これもまた、朴大人の端的な言葉。

「……また、ですか。こうしてそんな目に遭うのは何も今回が初めてではありません。どうせ相手はあいつ…、と失礼。殺生丸様のお手で手打ちにされたのでしょう」
「だから外も中も危ない事には変わりがないのですから、主の身を警護する者の苦労を減らして頂く為にも、そうそう外を歩き回らないで欲しいと思います」

 主の大事と言いつつどこか冷めた物言いの二人に、顔を真っ赤にして邪見が食いつく。

「お、お前たちはっっ!! 今、どれほど殺生丸様が大変な目にあっておられるか、ちっとも判っておらん! せ、殺生丸様がっっ……!!」

 勢い込んで喋ろうとし、息が詰まって言葉が途切れる。その様子を見、すっと二人の表情が鍛え抜かれた武人として顔になる。

「と、これはいつも我らが思っている事を口にしたまで。城の者には、その程度に思わせておいた方が良いのでは?」
「邪見様の慌てぶりが尋常ではないので、殺生丸様お怪我とくらいには飛語を流した方がいいかもしれません」
「あ、お前たち……?」

 ぽかんとした顔は、場の急変についてゆけない邪見。

「……たいした事じゃなければ、城への使いに走るのは琥珀の方。あの子は子どもながら状況を読む事に長けてます。何か『こと』があったなら、あの子がその場でどう動くか判断します」
「そう、自分が主の側を離れても安全だと判っている時は、です」

 鋭い視線と洞察力。今更ながらにこんな人材が敵側の人間だとしたら、城の中だろうと外だろと今より危険が増すことに違いはなかろうと邪見は思う。そうしてふと、思い至る。
 弥勒が僧侶でありながらその性格と計略の才を朴大人に抜擢され、参謀補佐に納まってから宮中内での不祥事が激減した事と、珊瑚が後宮警備主任に任命されてからの警備の強化は確かに目を見張るものがある。危険は城の中でも外でもと口では言う二人だが、今の時点では明らかに宮中の方が安全性は高くなっていた。

「だいたいは察してますが、これからの対策を具体的に立てる為にも詳しい状況をお聞かせ願えますか、邪見様」

 そう言う弥勒は、参謀補佐に相応しい表情を顔に浮かべていた。

「ああ、ワシと琥珀が一晩殺生丸様のお側を離れてしもうて…。その夜は酷い大雨で身動きが取れなかったんじゃ。夜が明けて雨も小降りになったので、殺生丸様をお待たせしている町外れの山の端に向かった。そうしたら ―――― 」

 そこで邪見は、少し言い淀んだ。おそらく、そこで目にした光景がこの変事の核なのだろう。

「……夜中の大雨で崖が崩れたらしい。その崩落現場の直ぐ近くで殺生丸様の沓を見つけた」
「それじゃ、殺生丸様は……。まさか、そんな天災にあわれるなんて…」

 思わず言葉が漏れた珊瑚。そこで何か感じたのか、ぴくりと弥勒の表情が動く。

「それは…、ただの天災ではなかったと。そういう事ですね、邪見様」
「岩や土砂と一緒に見たことも無い種類の山犬の死骸もたくさんあった。その死骸も四肢がばらばらになっておった」
「山犬の群れに襲われたくらいなら、殺生丸様の腕なら造作もなく切り抜けられるはず。追い詰められて、崖から落ちるなんて……」
「そう、そうしてそんなに都合よく崖が崩れるものかどうか。山犬の死骸がばらばらになっていたといいましたが、それは岩や土砂に押し潰されての事ですか?」
「いや…、押し潰されたというよりは引き千切られたような感じじゃった。雷にでも打たれた感じじゃろうか」

 聞けば聞くほど、その天災が胡散臭く思えてくる。
 山犬の群れに襲われ、崖っぷちに追い詰められた所に雷が落ちて、その山犬もろとも崩れた崖の土砂に生き埋めに。

( ふん、出来すぎた筋書きだな )

「それに、琥珀がその崖崩れの場所を見張っている者の気配を感じると言うてな。だからこそ、殺生丸様が土砂の下にいる可能性は半々じゃと……」
「なるほど。この筋書きを書いた『何者』かがいるという事ですな。もちろん、確実に殺生丸様のお命を奪う目的で、山犬をけしかけ巧妙に崖っぷちに追い詰め、雷の如き力で崖を崩した者が」
「……だけど、その何者かも邪見様が戻ってこられてもその場を離れる事ができなかった。それはなぜか? 答えは一つ。その者たちも企みの結果をまだ確認出来ていなかったから」

 琥珀の姉だけに、弟と同じ視点でものを見る。

「殺生丸様の死を確認出来ていたら、そこにその者らが留まる必要は無い。下手に留まれば、企みの足が付く事にもなる。その危険を冒してまで留まる理由は、もし殺生丸が生きていれば止めを刺そうという魂胆だろう」
「こちらの出方を伺っている、という事だね」

 しばし考え込む二人を前に、なかなか言いだせずにいた琥珀の言葉を邪見は口にした。

「……琥珀がこうも言うたんじゃが、『犬夜叉の周りの動きに気をつけろ』とな。やはりあやつめは、殺生丸様を亡き者にしようと企んでおるんじゃろうか?」

 邪見のあまりに的外れな危惧に、弥勒と珊瑚の二人は顔を見合わせた。確かに犬夜叉の『周り』の者にその気がないとは言い切れないが、犬夜叉自身はそんな事これっぽっちも考えてはいない。むしろどうにかして今の第二皇子であるいうその地位も、この国さえも捨てたいような態度さえ見せている。そんな犬夜叉の性格と言うか人となりは、『友人』として弥勒も珊瑚も良く判っていた。

「ああ、判ったよ。犬夜叉の『周り』にだね。あいつは今のところ篭の中の鳥状態だから、あたしが手配するよ」

 珊瑚は後宮警備主任である。その権限が及ぶのは殺生丸の為に設けられた後宮内ではあるが、それに付随して先代の後宮関係者の一部もその警備傘下に入っている。先代は実は後宮と呼べるようなものを持ってはいなかった。現香麗国王である正妃と共に戦乱の日々を過ごし諸国を平定するのに忙しく、後宮に篭るような時間が殆どなかったからでもある。また正妃との間に殺生丸という第一皇子も設け、後継者獲得の為の機能でもある後宮をさほど必要としてなかったと言う理由もある。

 正妃が母国に国王として凱旋帰国し、狛與王妃としての役職を空位にせざるを得なくなってはじめて公妃を持つ事にしたくらいだ。その第一公妃が、犬夜叉の母である。犬夜叉の母を宮廷内に住まわせる後宮作りを始めた頃に、先代国王である闘牙王は公妃の産屋用の仮の邸で亡くなった。焼け落ちる邸から犬夜叉の母と生まれたばかりの犬夜叉を助けた為の、焼死であった。

 実はこの頃から、既にどちらの皇子も命の危険に晒されていたのだ。香麗国王でもある狛與王妃の肝煎で、早急に女子どもに安全な場所を宮廷に確保するという目的の為に作られたのがこの国の『後宮』なのである。元々は一つだった後宮を二人の皇子が成長するに伴って二つに仕切り、城壁と城壁の間に中庭を造りそこに珊瑚を始めとする後宮警備の女官兵を配置するという現在の形になったのだ。

「とにかく、そういう訳で急いで山狩りの準備をしてワシは戻らねばならんのじゃ! まだ土砂に埋もれておるのならすぐに掘り出さねばだし、その難を逃れてどこかに身を潜めておられるのなら、それも早ようお探し申さねば!!」
「う~ん、それもどうかな…。確かに邪見様の言われるのはもっともだけど、こちらの動きが派手になれば、相手に先回りされる危険も出てくるし」
「じゃが、一刻も争う時じゃぞ!!」

 何事か考え込んでいた弥勒が、不敵な笑みを浮かべて邪見に向き直った。

「ではこうしましょう、邪見様。邪見様は城から兵を連れてそこに戻って下さい。私は導師にお願いして、屈強な僧兵を動かしてもらいます。山行を積んだ僧兵ばかりですから、こんな時はきっとどんな兵士よりも有能でしょう」
「ほう、僧兵を出すなら城からの兵は必要なかろう」

 弥勒の企みに、朴大人が興味深げに目を光らせそう尋ねる。

「これも筋書きです。私はあいつがそうそう簡単にくたばるとは思っていません。生きている事を前提に動きます。ただその状況であれば無傷ではないでしょう。下手をすると動かせない状態かもしれません。そんな状態を敵に知られるのは、はっきり言って危険です」
「うむ、それで?」
「やつらの眼をくらませる必要があります。その為のおとりです、城の兵は。山行の僧侶が山を歩いていても、おかしくありませんし山の中で気配を消す事など朝飯前ですから」
「つまり敵に気付かれる前に、山の中から探し出すという訳じゃな。最初から土砂の下は問題外、ということかのぅ」
「土砂の下からあいつが出てきたとしたら、十中八九は……。でも、それなら怪我をして動けないあいつを死体のようにして運べば、安全ではないかと。上手くゆけば、敵のしっぽも掴めるかも知れません」

 我が主をあいつ呼ばわりした上に、死体などと縁起でもない事を口にする弥勒に邪見は今にも口から泡を吹いて卒倒しそうなほど、怒りでぶるぶる震えている。それをどこか涼しい顔で受け流す弥勒。どこまで気を許しているかは判らないが、この宮中で殺生丸が唯一『友人』として見ているかもしれないのがこの弥勒であった。

「み、弥勒! お、お前はっ、殺生丸様の事をあ、あいつなどとっっ………!!」
「邪見様、事は急ぎます。お疲れでしょうが、すぐに兵を連れて戻ってください。邪見様と兵の受け持ち区分は崖崩れの土砂を除かせる事だけですから、下手に山の中を探索などしないでください。それはこちらの僧兵の領分。くれぐれもいいですね」

 そう言い捨てるが早いか弥勒は、その場から退室していた。珊瑚も後宮内での受け入れ態勢を整えるためと、城内のこの一件に関しての情報を得るべく自分の持ち場へと向かう。少し出遅れて、邪見も城の指揮所へと走って行った。
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