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「月華覇伝」
月華覇伝3         (サイト掲載済み)

覇伝3-3 


 あの旅の男がどんなものであれ、自分の命を救ってくれた事には変わり無く一礼をしてその場から逃げた娘は町外れに隠していた敷布も抱え込むとそれを持って、あの洞の側へと向かった。同じ頃、考えあぐねたと言う風を装って琥珀が崖崩れの現場から立ち上がった。自分の動向で、今自分を見張っている者の気配を確かめてみようと思ったのだ。

「もしこの土砂の下に殺生丸様が居られるとしたら、十中八九は絶望的だろう。でも一分の望みを繋ぐなら、この土砂を早く取り除く事かそれともここではないかもしれない可能性にかけて、この辺りをもっと詳しく探してみる事か……」

 わざと見張りに聞こえるように、そう声に出してみる。幸いな事に琥珀のなりがまだ少年の域を出てない事もあって、そう言う迂闊な言動も年相応の子どもっぽさに受け取られていた。琥珀の言葉に、微かにざわりとした空気が揺らぐ。

( ……俺の背後に三人、左前に一人。少し離れてもう一人、全部で五人だな )

 この場の見張りの位置と人数を確認する。

「俺がもし殺生丸様なら、そして少しでも動ける状態ならばどうするだろうか? 怪我をした状態のままでいつまでも山の中に留まるのは危険だよな。血の臭いで山の動物達に襲われないとも限らない。となると、山を降りようとするか…?」

 そう呟きつつ琥珀は、崩落現場から自分たちが来た道を逆にめぐり始めた。この道を戻ればあの町に繋がっている。その途中でなら主従が合流する事もありえると。琥珀の行動を見、曲者たちは先回りをした。一人だけはその場に残り、他の四人は琥珀の動向を見張りながら先走りのように町につながる道筋をそれらしい場所はないかと探し始める。
 仮に殺生丸が生きていたとしても、身動きが取れないのならそう問題ではない。拙いのは主従に合流され、双方始末したとしてそれを『不運な事故』ですまされない状況になる事だった。

( あの場を離れて、俺を追ってくるって事はあいつらも殺生丸様の所在をはっきり掴んだ訳じゃないんだな )

 鋭敏な感覚で付いてくる気配を正確にあの場所から引き離す。このまま町外れまでついて来ると言う事は、琥珀がこの事態をどう判断したかを確かめる為。今更慌てて殺生丸の所在を探ろうとしないと理由は、この相手は自分よりもはるかにあの瓦礫の下に殺生丸の死体が埋まっていると思っているからか。

( そんな事、絶対あっちゃならないんだ!! )

 町に一旦戻り、この追跡者を撒いたら今度はこちらが追跡する番だと考えていた。それでこの出来事の真相に迫る事が出来ればと、いやそれよりも我が主である殺生丸の居場所を探る手がかりになって欲しいと願っていた。こうして琥珀があの残っていた曲者の殆どを自分に引き付けて崩落現場を離れた事が、琥珀の知らないところで功を奏していた。そう、あの娘の行動から殺生丸の居所を知られる危険性を低くしていたのだ。

 一人残った見張りは、崩落現場を見下ろせる崖の上に身を伏せてその辺りの様子を伺っていた。ここからならばかなりの範囲を見張る事が出来る。その替わり、微かな足音や葉ずれの音などからそこに何者かが潜んでいる事を察知するには不利だった。その見張りの前を獲物を抱えてあの娘が通り過ぎてゆく。この娘の水呑場が、ここから見下ろした藪の先の古木の根方から湧いている岩清水だと知っているからか、気にも留めない。その辺りは藪が重なり根方の方は見通しが悪い。娘の姿も藪に遮られ隠されがちになるが、何か異変があればその気配を隠し切れるはずもないと高を括っていた。今も娘から放たれる気配は、獲物を手にした嬉しさか少し弾んでいるように感じられたのだ。

「……ふむ、やはりあいつはこの辺りに潜んではいないようだな。いや、もうすでに冷たくなってあの岩の下か」

 最後の見張りも先に琥珀を追った仲間達のあとを追うことにした。

 行き違うように娘は、そっと古木の脇を登り藪に隠された反対側の入り口から中を覗きこんだ。その人はそのまま、そこにいた。修行を積んだ武人ならではの身のこなしで、その気配を完全に消している。この娘とて、あの偶然がなければきっとどんなに側に居たとしても気付かずにいた事だろう。

「……また来たのか」

 声が聞こえたのが不思議に思えるほど、まったく気配の無いところからそう声をかけられた。

「あ、あああ。あぅう ――― 」

 娘は手にした饅頭と敷布を差し出すように殺生丸の前に出した。それを一瞥し、そして――――

「盗んだものなど口にはせぬ、側には置かぬ」

 冷たい一言。
 娘の表情が凍りつき、泣いているような引きつった笑いを浮かべるようなそんな顔になっている。

「……それを手に入れるためにお前は町の人間に殴られたのだろう。お前はそれを自分のものにする代償を払ったのだ。私のものではない」
「あ…ぅ?」

 冷たい声の響きはそのままだけど、だけど……。

( 優しい…のかも、このお方は。なんだろう、この感じ…? )

 娘の凍りついた表情が解けてくる。ほんのりと温かいものが娘の身のうちをめぐり出す。。

「もう、ここへ近寄るな。私の災厄に巻き込まれれば命を落とすぞ」
「ぅうん?」
「じき私の供の者が見つけに来るだろう。それまでお前はここにはもう来るな」

 供の者、その言葉で娘はやはりあの町で馬を買った老人が、この目の前の貴人の供の者だと確信した。もともとそうは思っていたけど、あのお爺さんが町に戻ってきたらどうにかしてここに連れて来たい。でも自分は言葉を話せない。 どうしたら、ここにこの方が居るのを伝えられるだろう…、そう娘は思案しふと殺生丸が身に着けている飾り帯に目を留めた。それを凝視する様子に、殺生丸は飾り帯の美しさにこの娘の心が動いたと思ってしまった。それを片手で解くと娘の前に突き出す。常に冷静であれと言い聞かせていた自分の胸の中に、今まで感じた事のない不快さを殺生丸は感じた。

「これが欲しくば受け取れ。その代わり、もう二度とここには近付くな!!」

 びくりと娘が身を竦ませるほど、冷たく吐き捨てるその言葉。
 娘の無償の好意にいつにない気持ちが湧きかけたが、それも所詮は物品目当てと思ってしまえばその反動もあり、なお冷たさが増す。帯を投げ付けるように娘に与え、何者も拒絶する鋭利な気配で娘を突き放す。娘はびくびくしながらもその帯を手にすると、また山道を町へと向かって駈けて行った。

 その様子に、人間などどんなに幼くても計算高い欲深い生き物だと思わずにはいられない。自分も含め、そんな人間である事に心底殺生丸は憂いていた。みすぼらしさの中、宝石のような心を持った娘の本当の想いなどに気付きもしないで。

( じろじろ見ちゃったから、きっとご気分を悪くされたんだろうな。仕方がないや、こんなに薄汚いみっともない娘が側に居たら、気持ち悪くなるよね。でもこれであのお爺さんにこの帯を見せれば、きっとこの方の居場所を聞いてくるよね? それであたしが案内してあげれば、それで本当に終わりだよね )

 二度と近付くなと言われたけど、あのお爺さんを案内するのは自分の役目だと娘は思った。嫌われているから、また冷たい視線と言葉を投げられても仕方が無い。そんなのは当たり前、今までだってゴミか虫けらのようにしか扱われなかったのだから。あの人がここを去れば、またいつものような毎日に戻るだけだから……。

 胸がなぜか、痛くて苦しいような気がした。

 早馬で都に戻った邪見、残った見張りを引きつけ何をか企んでいる琥珀。そこにこの娘が引き寄せられるように、あの帯を手に山の中の道を走っていた。走るたびに娘の瞳には薄っすらと涙が滲み、それでもちゃんと自分の役目を果たすんだという健気さがきゅっと引き締められた口元に現れていた。

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